偽者なんかに負けるかよっ!




「唐突だが、本日は特別授業を行なおうと思う」
これこそ青天の霹靂だ、と言わんばかりの唐突さでチャイルドマン教師は生徒等に言い放った。
チャイルドマン教室は、魔術士養成所<牙の塔>の中でも極めて特異な位置を占める。
故に、通常行われないような特別授業があっても何ら問題はなかった。が、今回のそれは唐突すぎた。
「では、早速だが実習室へ集合しろ」
生徒達の反応を待つ間もなく、その教師は去って行った・・・。


「面白そうじゃない?さぁ、みんな、行くわよ〜!」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、先生がこんな事を言い出す時は絶対良い事無いんだぁぁぁぁ!!!!」
「アザリーが行くって言うんだったら行くしかないでしょ?だってアザリーが言うんだもん。」
「まぁ、この天才にかかれば如何なる苦難だろうが、役不足!先生の課題、受けてたとう!」
「ティッシ、同感。・・・あ〜あ、これで明日から全治○週間の怪我を圧しての授業か〜(溜め息)」
「どうでも良いが、コルゴンが既にいない事に気付いているのは俺だけか?」
チャイルドマン教師が去ってから一分後、教室にいた七名の生徒等は我に返り、めいめいに話し始めた。
 但し約一名、<コルゴン>だけは周囲の者に気付かれる事無く、その場からの脱出に成功していた。
理由は謎だが、彼だけがいつも特別授業をサボっても咎めを受けなかった。羨ましい奴・・・。
しかし、彼を除いた六名はそうはいかない。しかもアザリーが乗り気では他の者は反対の仕様が無い。
理由は・・・彼女がアザリーだからである。(笑)
そういう訳で、好む好まざるに関わらず、残りの六名は教室の外へ足を向けたのだった。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
実習室に入った瞬間、全員が同じように驚愕した。
目の前に自分達がいたのだ。これで驚かない者はおそらく双子か、異常事態に慣れた者だけだろう。
「全員散開!アザリー及びレティシャを除き、それぞれ自分と同じ姿の者と闘え!」
第一声をあげたのはフォルテである。理由はどうあれ、指揮者として教育されたフォルテに逆らう者は
チャイルドマン教室の中ではいないだろう。戦闘に際して指令に逆らう事は愚の骨頂であるからだ。
「了解!×3」
コミクロン、ハーティア、キリランシェロの三名は直ちに行動し、そしてそれぞれが自分を相手に選んだ。
「ねぇ、フォルテ。どうしてあたし達は待機で、あの問題児達が闘うの?しかも自分を相手にしろだなんて・・・」
「そうよ、つまんないじゃない!!」
レティシャが質問をし、アザリーが露骨に不満を口にした。フォルテは質問に答え、不満は無視する事にしたらしい。
「まず、自分を相手にさせた理由は同士討ちを防ぐ為だ。」
フォルテは簡潔にそう答えた。過去において、数あるフィクションの中で自分の分身と闘う話は多いが、
殊更に主人公が<自分>と闘うのはこういう理由だからである。(決して話が面白くなるからではない)
「君とアザリーに待機を命じたのは、君は守りの専門家だからで、アザリーがクイーンだからだ。」
「???????×2」
レティシャが守りの専門家、と言うのは周知の事実であり、フォルテの言葉は正しい。
しかし、『アザリーがクイーン』と言う台詞が彼女達には理解できなかったらしく、互いに顔を見合わせ、
フォルテに向かって同時に首をかしげた。
「チェスの基本なのだが・・・」
フォルテは、種明かしをするのが楽しいのか、笑いながら答え始めた。
「破壊力―つまりチェスで言う行動力だが―それがあまりに大きすぎるクイーンと言う駒は迂闊に動かせん。
何故なら、迂闊に動かすとすぐに、その武器である行動力を味方に制限されてしまうからだ。
分かるか?つまりアザリーが闘うと、味方を巻き込まない様に闘う事になり、力の半分も出せなくなるんだ」
そう言うと、フォルテは偽フォルテ(便宜上、相手をこう呼ぶ事にする)の方を指差した。
アザリーとレティシャがその方向を見ると、向こうの偽アザリーも偽レティシャも同様に
偽フォルテの傍に控えていた。
「だろ?」
フォルテがそう言うと、レティシャは素直に拍手したのだった。アザリーは不満そうだったが。


「でも、このままじゃジリ貧よね〜。フォルテの真似するわけじゃないけど、
チェスで喩えるなら一駒も取られずに勝たなきゃいけないわけでしょ?
それって大変じゃない?」
アザリーがかなり的を得た疑問を口にした時、戦闘は五分を経過したところだった。
実際に闘っている三人の疲労は相当なものだと分かる。あからさまに、肩で息をしていた。
「さて、どうしたものか・・・・・」
フォルテは先刻からずっと考え続けている。いかにして状況を打破するかを。


「集合!」
フォルテが<何か>を思いつき、問題児軍団を呼んだのはアザリーが疑問を口にした時刻から
さらに四分が経過しようとしたところだった。
偽者側もこちらに合わせて集合していた。おそらく向こうも休憩が必要だったのだろう。
フォルテが問題児達に対して、その<何か>を伝えるやいなや、三人は散って行った。
三人が動いた後、本物側が完全に勝利するまで五分とかからなかった・・・。


本物側はいったいどのような作戦を実行したのだろうか?
時間を四分と五十秒ほど戻してみよう。


「とりあえず、各々が自分の弱点を突け」
フォルテはたった一言、三人に伝えた。問題児三人組はそれがどういう事か理解したらしく、
詳しい事は聞かず、即座に行動に移す事にした。


では今度は三分ほど戻って、三人組を個々に見てみよう。


「まったく・・・、言われてみれば当然の事だよなぁ」
そうボヤいたのはキリランシェロである。そして彼は作戦を実行に移した。
「あっ!!!アザリーが危ない!」
そう言ってキリランシェロは偽者側アザリーを指差した。それにつられたように、偽キリランシェロが
そちらを向き、バランスを崩した。その隙を見逃すようなキリランシェロではない。
体勢の崩れた偽キリランシェロに容赦無い一撃を叩き込む!そして偽キリランシェロは砂になった・・・。
「もしかして僕、一生アザリーに振り回されて生きるのかなぁ・・・・?」
ふっ、とそんな暗い未来を想像して、キリランシェロは深い深い溜め息を吐き、歩き始めた。


「この天才に弱点などないんだがなぁ・・・・。
というより、弱点が無いから、天才なんだと思うが。
では、私はどうしたらいいのだぁ〜!!!」
訳の分からない自己問答で悩んでいるのは、言わずと知れたコミクロンである。
本物と偽者が互いに必要最小限の効果を狙った魔術しか展開しないので、かなり地味な戦闘になっている
「天才は天才ゆえに、天才なのであって・・・」
既に言葉に意味が無い。真コミクロンは打つ手がなくなり、覚悟を決めたその瞬間!
横から真キリランシェロが現れて、偽コミクロンを情けないほどあっさりドツいて砂に帰した。
「コミクロンの弱点は、『自分以外を信用しない』って事だろう?」
梅酒のようにサラリっと言ってのけるとキリランシェロはフォルテの元へ歩いて行った。
取り残されたコミクロンは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・真っ白な灰になっていた。(笑)


「あぁぁぁもぉぉぉぉぉぉ疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れたぁ!!!!」
聞いてる方が疲れてくるような台詞を叫んでいるのはハーティアだった。
彼の戦闘は、全戦闘が終わるまで続いた。不幸な男である。
チャイルドマン教師だったら、今の彼をこう(↓)評するだろう。
「ハーティアは特別短所が無いと言う点が短所だな」と。
これでは弱点のつきようが無い。哀れなハーティアに合掌。(笑)

「さぁ、キングを取りに行くか」
あっさりとした口調でフォルテは言った。
「相手より駒が二つも多いんだ。しかも、その使える駒は最も汎用性に富んだナイト(騎士)と、クセのある
動きをするビショップ(僧侶)だ。戦い方によっては簡単に取れるさ。」
今回、フォルテはとことんチェスにこだわるつもりらしい。フォルテにしか分からない喩えをして、
キリランシェロとコミクロン、そしてラストカード(切り札)のアザリーを率いて偽フォルテに歩み寄った。
「アザリー、敵のクイーンの足止めを頼む」
「言わなくても分かってるわよ。そんな事!」
言うが早いか、アザリーは偽アザリーと対峙した。互いに警戒しあって動こうとしない。
ちなみに、この間もハーティアは戦闘中。不幸だ(笑)。
コミクロン、キリランシェロ、フォルテの三人に包囲された偽フォルテは、あっ、と言う間に砂になった・・・。


偽フォルテが砂に帰ると、他の偽者も全て砂に帰ってしまった。
理由は分からないが、一同は『チェスと一緒だったのだろう』と言う事で納得した。
ハーティアは疲労で倒れている。レティシャは暇を持て余して寝てしまった。この差はいったい・・・(笑)。
何はともあれ、こうして本物側は五分で偽者を全て倒し、特別授業を終了したのだった。


後日、キリランシェロはフォルテに『どうして、あんな作戦思いついたの?』と尋ねた。
すると、フォルテは苦笑しながら、次のように答えたのだった。
「自分の弱点を一番知っているのは自分だからさ」
キリランシェロは『なるほど、道理だ。』と一つ利口になった、と思ったと同時に
『フォルテって・・・何者?』と言う難解な疑問を持つ事になってしまったそうだ。