Otherside story of the angel's whisper


私は朝に特別な感情を抱いてはいない。24時間後には、今感じている朝と特に変わりの無い同じような朝を迎える。
それだけの事だ。自分でも目覚めは良い方だと思う。何事も無かったように(実際何事も無いのだが)ベットから出る。
ローブに着替え、それなりに寝癖を直す。そして洗面所へと足を運ぶ。毎日同じ行動。今年で十数年目になるだろうか?
しかし、これ以外の行動をする事は無駄であろうし、これ以上行動を省いては不都合が生じる。常に最良の行動をとる……。
それが正しい生活だろう。いつもの行動を終え、自室に帰った私にふと、カレンダーが目に入った。いつもなら次の行動は朝食の支度の筈だが、
この日に限り、何故かカレンダーに眼が行った。取りたてて意味のある行動ではない。だが、この日に限り、この行動には意味があった。
私は数日後が、<あの日>である事を思い出した。これは偶然だろうか、それとも必然だろうか……。それから私は朝食の支度をすすめた。

廊下を歩く。此処で、牙の塔で生活する魔術士全てが自然に行なうであろう行動。私とて例外ではない。
自然に行なう行動に、何か特別な感情や特別な仕草は必要ない。当然だろう。私は歩く……。
目的地である体技室に近づくと「ずだんっ!」と言う音が聞こえた。体技室から聞こえる音としては至極まともな音だろう。
私は時々、この部屋から「ぼきんっ!」などと言う生理的嫌悪を覚える音を聞く。それに比べれば至極まともな音だ。
体技室の扉を開ける。そして室内を見回す。床にはハーティアとコミクロンが倒れ、キリランシェロが壁に寄りかかっている。
そんな彼等を無視するかの如く、レティシャは汗を拭っていた。この様子では、レティシャが彼等を叩きのめしたのだろう。
比較的近くにいて、なおかつ私の質問に答えてくれそうな者―キリランシェロ―の傍へ行き、私は声をかけた
「……何の訓練だ?」
これは質問ではない。確認だ。
「一言でいえば、現実の再認識……かな?」
予想通りの解答。私は特別な意味も無くうなずいた。
「ふたりがかりでこれか。まあそんなものかもしれないが」
「三人がかりだよ」
「三対一?なんでお前はこんなことろで見物しているんだ?」
「いや、一番最初にこの壁まで吹っ飛ばされて。動けないんだ」
「……そうか」
この解答にも意味はない。キリランシェロの事だ、また無意識に手加減をしたのだろう。
本人に意識が無いだけに質が悪い。私は嘆息したくなった。もしかしたら無意識に、実際嘆息してしまったかもしれない。
「なにか用事?」
向こうからレティシャが声をかけてきた。彼女は髪を弄っていた。髪を弄るのは退屈か、もしくは「相手に自分を良く見せたい」と言う
欲求の現われらしい。この場合は前者であろうと、容易に見て取れた。彼女は笑いながらこう言った。
「暇なら、加わる?あなたが体を動かしてるとこ、しばらく見てないような気がするんだけど」
「やめておく」「もう君には、十分に自信を削り取られたと思うからな」
何年もの間、彼女とアザリーに年間主席を独占され続けた私にとって、この言葉は心の叫びである。が、自分の力量が
彼女等に及ばなかっただけなので、此処で彼女等を恨むのは筋違いだろう。。ゆえに私は、この台詞を言う事に抵抗はない。
そんな私の心中を察してか、彼女―レティシャ―は私に笑うような吐息を漏らす。
「……なにか、嬉しそうに見えるな?」
「そう?」
彼女は含みのある解答をした。おそらく「自信を削り取られた」と言う台詞から<例の事>を思い出したのだろう。
この場で、私自身が<その事>を言及するのは愚行だろう。私は敢えて追いかけない事にした。
「まあなんにしろ、あんまり後輩をいじめないことだな。誰も彼もが、君のようにできるというわけでもない」
「な―」「なによ、それ」
殊の外、心象を害したらしい。特に他意の無い一言だったのだが……彼女にしてみれば、「自らの理想の男性像を
年下の彼等に強要している」と言う自覚が少しでもあるのだろうか?私の邪推だと思っていたのだが……な。
これ以上、深入りすると彼女にとっても私にとっても良い事はない。私は話しを本題に戻す。
「実を言えば、たいした用事があるわけではないんだ。まあ、君たちの悲鳴を一刻も早く聞きたいと思ってね」
自分でも「悪趣味だな」と思う。
「……?なにそれ」
「我々の中から四人―つまり一チームだな。山中生存訓練に参加することが決まった」
「……」
悲鳴はきっかり十秒の硬直のあとにあった。

続く(と思う)

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